いまさら種死問題

 むかし「太陽の牙ダグラム」という富野アニメがありました。主人公は有力政治家の息子でありながら植民惑星の反政府ゲリラに身を投じ、路線対立や裏工作に翻弄され、最後は一市民として植民惑星で生きることを選びます。

 シン・アスカは高い能力を持ちながら、積極的に歴史を動かす側に加われず、他人に運命の大半を握られたまま終わりました。そのこと自体はアニメでは珍しいものではありません。ジュドーだってカミーユだって戦後の論功行賞で偉くなったわけではありません。ただシンが感情的な態度を繰り返すばかりで、自分の運命を積極的につかみ取る行動に出なかったことは、「登場人物の誰にも共感できない」という不満につながっただろうと思います。いわゆるラクシズ(旧クライン派)も、人の行動を止めるばかりで、積極的な構想実現を目指す勢力ではありませんでしたからね。

 ラクスとキラの関係はほぼ前作通りであるのに対し、カガリは明確にアスランの指輪を外して見せます。メイリンアスランへの献身がストーリーの核にある以上、そういう扱いもひとつの方法かと思います。ただ、一度祝福したカップルが筋の都合で縁切りさせられるのは、不満に思った人も多かったでしょう。前回助かった人を冒頭で殺すのが恒例みたいになったホラー映画シリーズが、むかしありましたねえ。

 ある意味で、日本陸軍最初の元帥は西郷隆盛です。維新直後にはそういう階級を作ろうという構想があって、軍人としての階級を持っていなかった西郷がいきなりこれに任じられました。その後に制度が整備される中で階級としての元帥は廃止になり、西郷はあらためて陸軍大将になりました。軍の草創期には抜擢人事が行われることがあるので、キラやアスランがいきなり将官になっても誤りとまでは言えません。他のアニメと比べて、SEED DESTINYが際立って軍事的におかしなアニメだったとは思いませんし、たまたま日本はそうした状態にこのところ出くわしていませんが、スポンサーのついた軍閥が割拠する状況は世界でよく見られるものです。反乱勢力が巨大な整備設備の必要な戦艦を持っているところはウソっぽいと思いますが、Vガンダムだって同様です。

 カタルシスを与えるというエンターテイメントの原則に反して「リアルな」群像劇を作ろうとし、当然ながら諸方面の圧力を受けて徹底せず(デスティニープランやレクイエムという諸悪の根源を登場させざるを得なくなり)、中途半端に終わってしまったというのが私の解釈です。

 というようなことを考えつつ馬鹿話を製作中。